【まえおき1】
x2=−1を満たすxは?と問われれば、±iと答えるのが普通ですが、解はこの怪しげな数iしかないのでしょうか。
j2=−1 であって、i≠j≠−i なるjはないのでしょうか。
こたえは、「あるようなないような」です。
iとjと1(実数単位)だけで、一つの「数」の枠組み(超複素数)を作ることが可能ですが、これは、実数、複素数に比べ便利ではありません。
ここで便利とは、少し省いて書きますが、下記の性質を持つこととします。
(1-1) 加法:+がある。 (1-2) 加法交換則:A+B=B+A (1-3) 0(元)がある。 A+0=A (1-4) 逆元:−Aがある。≡引き算できる A+(−A)=0 (2-1) 乗法:×がある。 (2-2) 乗法交換則:A×B=B×A (2-3) 1(元)がある。 A×1=A=1×A (2-4) 可除性(逆数):1/Aがある。A≠0 A×(1/A)R=1=(1/A)L×A (3)分配則がある。 A×(B+C)=A×B+A×C (B+C)×A =B×A+C×A (4)乗法結合則がある。 A×(B×C)=(A×B)×C
実数および複素数はこれらの性質を全て持っています。
一方、iとjと1(実数単位)だけでは、成立しない「便利さ」が多くなります。
そこで登場するのが、若干不便ですが、
4元数(ハミルトン数)です。
(αは実数、i→i1、j→i2)
Z=α0+α1×i1+α2×i2+α3×i3
ただし、掛け算:×に関し、表2であるとします。
表1の複素数にくらべ、大きな違いは
i1×i2=i3=−i2×i1
であって、(2-2) 乗法交換則だけが成り立たないことです。
表1 複素数の乗積表 |
||
× |
1 |
i 1 |
1 |
1 |
i 1 |
i 1 |
i 1 |
−1 |
表2 4元数の乗積表 |
||||
× |
1 |
i 1 |
i 2 |
i 3 |
1 |
1 |
i 1 |
i 2 |
i 3 |
i 1 |
i 1 |
−1 |
i 3 |
−i2 |
i 2 |
i 2 |
−i3 |
−1 |
i 1 |
i 3 |
i 3 |
i 2 |
−i1 |
−1 |
【問題1】
3元数 Z=α0+α1×i1+α2×i2
が便利でないのはどういうところでしょう。
ただし、(1-1)〜(1-4),(2-1),(3)は成立しているとし、乗法は表3であるとします。
なお、(2-1)が成立する(環である)とは 表3の?Nが
?N=PN0+PN1×i1+PN2×i2(PNは実数)であることとおなじです。
証明は、PNkの6成分をどう選んでも,
(2-2),(2-3),(3-4),(4) のうちの幾つかが成立しないことを計算すればよいのです。
表3 3元数の乗積表 |
|||
× |
1 |
i 1 |
i 2 |
1 |
1 |
i 1 |
i 2 |
i 1 |
i 1 |
−1 |
?2 |
i 2 |
i 2 |
?1 |
−1 |
【まえおき2】
4元数は多分いきなり出てきたのではなく、問題1の破綻を少なくするため 、次元を広げて
i1×i2=i3 を導入したと推測されます。
また、最初はi1×i2=i2×i1をもちこんだでしょう。
【問題2】
4元数 Z=α0+α1×i1+α2×i2+α3×(i1×i2) で
i1×i2=i2×i1=i3としたとき、この4元数系は数として便利でない例を示せ。
ただし、
i32=i1×i2×i1×i2=i1×i1×i2×i2=i12×i22=1よりi3=±1
なので「i3導入は意味なし」は解答ではありません。
iに対するjのように
i32=1 だが i3≠±1 なる数(虚実数単位rとする)が有っても良いからです。
この問題の本質は Z=1+r のような数(複素数に対応する呼び方として「2重数」と呼ばれる)の不便利さの発見におきかわります。
【まえおき3】
ハミルトンの4元数は表2で特徴付けられ、(2-2)乗法の交換則を除き便利な性質を持っています。
表2は【まえおき2、問題2】を経由して生み出された可能性以外に、もう一つ、2重化(ケーリー&ディクソン手法)という考え方で生まれた可能性もあります。
これは 複素数 Z=α0+α1×i1の
係数α0、α1が実は別の複素数系の数
α0=β00+β01×i2
α1=β10+β11×i2
に拡張したものとする方法です。
この方法でも、同じハミルトンの4元数が生成可能です。
【問題3】
複素数 Z=β0+β1×i4
の係数 β0、β1、が実はハミルトンの4元数
β0=α01+α01×i1+α02×i2+α03×i3
β1=α11+α11×i1+α12×i2+α13×i3
であるとして2重化により生成出来る8元数の系は、(2-2)の乗法交換則の破綻以外に成立しない「便利さ」があります。
それは (2-3),(3-4),(4) のうちどれでしょうか。
問題4を先に解答したら分かります。
【問題4】
8元数の乗積表を完成してください。
乗算は下の式で規定します。
(β0+β1×i4)×(γ0+γ1×i4)=(β0γ0−γ’1β1)+(γ1β0+β1γ’0)×i4ここで β γは4元数で 、γ’はγの共役を示す。
つまり
β’0=α01−α01×i1−α02×i2−α03×i3
問題4解答 8元数の乗積表 |
||||||||
× |
1 |
i 1 |
i 2 |
i 3 |
i 4 |
i5= i 1i4 |
i6= i 2i4 |
i7= i 3i4 |
1 |
1 |
i 1 |
i 2 |
i 3 |
i 4 |
i5 |
i6 |
i7 |
i 1 |
i 1 |
−1 |
i 3 |
−i2 |
i5 |
? |
? |
? |
i 2 |
i 2 |
−i3 |
−1 |
i 1 |
i6 |
? |
? |
? |
i 3 |
i 3 |
i 2 |
−i1 |
−1 |
i7 |
? |
? |
? |
i 4 |
i 4 |
? |
? |
? |
−1 |
? |
? |
? |
i5 |
i5 |
? |
? |
? |
? |
−1 |
? |
? |
i6 |
i6 |
? |
? |
? |
? |
? |
−1 |
? |
i7 |
i7 |
? |
? |
? |
? |
? |
? |
−1 |
【おまけ問題】
ハミルトンの4元数 Z=α0+α1×i1+α2×i2+α3×i3
の係数 α0、α1、α2、α3 が別系統のハミルトンの4元数
α0=β00+β01×i4+β02×i8+β03×i12 、 α1=β10+β11×i4。。。。。。。。であるとして2×2重化により生成出来る16元数の系は、(2-2)の乗法交換則以外に破綻する便利さがあります。
【うんちくとヒント】
ハミルトンの4元数はべクトルと行列の祖先だそうです。
また問題3、4の8元数はケーリー数と呼ばれていますが,最初は別系統の問題「平方和の問題」から見つかったそうです。
なお、フロベニウスの定理として、便利な数体系に近い(可除性がある)ものは 1,2,4,8元数に限られ、かつ、それぞれ実数、複素数、ハミルトン数、ケーリー数と同形であることが証明されています。
解答用紙はこちらです。
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