『あなたはPCR検査で陽性になりました。実際に感染している確率は?』


 私が子供のころ、多湖輝先生の頭の体操という本が、ベストセラーとなっていました。
同世代の方には懐かしく思い出される方も多いのではないかと思います。
今でも頭の体操という言葉は、元がそうとは意識せずに、普通に使われていますね。

その中に感染症の問題があり、検査した結果で陽性になっても、実際に感染している確率は意外に低いという問題がありました。
小さな子供だった私は理屈はよくわかりませんでしたが、その意外な結果は強く印象に残っています。
検査陽性のパラドックスというそうです。

私は元中学校の数学教師で、感染症の知識があるわけではないですが、興味を持ったのでPCR検査で陽性と言われた時に、実際に感染している確率を試算できるようにしてみました。
小学生でも算数で十分理解できるはずです。

趣味のサークル(現在は新型コロナウイルスの影響で活動休止中です)で何人かに聞いてみましたが、検査で陽性なら70%〜90%は感染しているかなと予想する方が多かったです。
私の聞き方で意外に低いのではないかと警戒したのか、10%と予想した方が、一番少ない数値でした。
念のためですが、タイトルなど決してふざけているわけではないので、気を悪くされる方がいないようにお願いいたします。
数学では「〇〇のときに、△△となる確率」というのは、条件付き確率の問題となります。

疫学の世界では常識らしいのですが、私も含めて知識がない方も多いと思われますので、少しでも広く知っていただくために、掲載してみました。




日本の人口126000000人(1億2600万人)は固定しておきます。
全員に対してPCR検査を実施するとします。

(1)国内感染者の数を□の中に入力します。
現状は3/10現在でクルーズ船を除いて500人を超えています。
初期設定では現状はあまり検査が行われていない状況を考えて10000人(1万人)としておきます。

(2)検査の感度(感染している人のうち、検査で陽性と正しく判断される割合)をパーセントで□の中に入力します。
正確な数字は誰にもわかりませんが、検査の感度は30%〜50%と聞きましたが、初期設定は私の主張に不利になるように少しでも正確になる70%と高めに設定しておきます。

さらに(3)実際には感染していないが検査では陽性と判断される(いわゆる偽陽性)割合をパーセントで□の中に入力します。
これも正確な数字は誰にもわかりませんが、1%〜10%と聞いたので、初期設定は5%(特異度95%というそうです)としておきます。

前提条件(1)〜(3)(水色の枠の中)は好きなように変更できます。
初期設定のまま変えないで計算ボタンをクリックしてもよいです。
変更する場合は数値はすべて半角で入力してください。
JavaScriptを有効にしておいてください。

(1)国内感染者の数:人。
(2)検査の感度:
(3)実際には感染していないが検査では陽性と出る割合:

をクリックすると、感染している確率が計算されます。

感染者非感染者合計
検査で陽性人。人。人。
検査で陰性人。人。人。
合計人。人。126000000人。

検査で陽性となった人中で実際の感染者は人なので

検査で陽性となったあなたの実際に感染している確率は、
÷×100=%となります。


いろいろと(1)〜(3)の数値を変えて実験してみてください。なお表中の人数は四捨五入して整数で表記しています。


 参考までに検査の感度というのは疾患ありの中で、どれだけの人が検査で陽性になるか、
特異度というのは疾患なしの人の中で、どれだけの人が検査で陰性になるか、という意味です。
当然ですが、感度も特異度もどちらも良ければ、それが良い検査になります。

今計算した結果は、いわゆる陽性的中率で、検査が陽性になった人の中で、どれだけ疾患ありになるか。
つまりこれは数学でいえば高校で習う条件付確率になります。

実験してみると感染者数1万人では、初期設定の検査の感度70%、特異度95%の条件で、検査の結果が陽性であっても実際に感染していた人はわずか0.11%しかいないということがわかりました。
検査の感度を90%に変えてもわずか0.14%でしかありません。

さらに現状ではそこまでではないでしょうが、感染者を10倍の10万人、検査の感度90%としても、10倍の1.4%でしかありません。

これならもし検査を受けて陽性となっても、正常性バイアスなどを考慮しないとしても、それほど落ち込まないで済むレベルではないでしょうか。

集団の中での有病率が低い状況で検査をすると、偽陽性の影響で新型コロナウイルスに感染していないのに検査結果が陽性と出る人の数が多くなることになります。
陽性という結果が出た人の中で、本当に感染している人の割合である陽性的中率もかなり下がってしまうのです。

逆にクルーズ船のように有病率が高い状況では、仮に検査で陰性となっても実は感染している可能性が高いことが予想されます。
陰性であっても感染しているとみて対処するしかないでしょう。

感染人数が1万人と比較的少ない場合は、仮に検査の感度を100%としても、実際には感染していないが検査では陽性と出る割合が 1%でもあれば(特異度99%)、感染している確率はわずか0.78%にしかなりません。
(もし1%ではなく0%なら100%感染しているといえるのですが、0と1では大違いです。)

感染人数が大幅に増えて1千万人になれば、 (感度70%、実際には感染していないが検査では陽性と出る割合5%の条件で)、検査で陽性の場合は約55%が感染しているという結果になります。
それでもたった55%かという印象はありますが。

いろいろ実験してみてください。

●今回は表を使って計算しましたが、この結果は高校数学で習ったベイズの定理を使って計算することもできます。時間があれば計算してみてくださいね。


 今見ているテレビ番組でも韓国でやっているのだから日本もPCR検査をもっとやれとコメンテーターが声高に叫んでいます。
もちろん、医師が検査が必要と判断してもどうしても検査を受けられないという状態は改善しないといけません。
しかし現状の国のシステムは課題があるとはいえ、全般にはかなりうまくやっているように思います。
特に多くの医療機関の方は、非常にうまく対応されていると思います。
私には韓国のようにドライブスルーで検査するような状況は今の日本では望ましいと思えません。
現状の日本でそれをやれば、おそらくほとんどの人が陰性となり、医療リソースを大きくロスします。
防護服も変えていない状況で連続して検査すれば、そこで感染が広がるリスクもあります。
病院に大量に患者が押しかけてきたら、院内感染のリスクもでてきます。
日本の検査能力は韓国ほど高くない中で、医療関係者はPCR検査にマンパワーを注ぎ込むことになり、他の病気で重篤になっている患者への治療が手薄になってしまうかもしれません。
希望者にどんどん検査するというのは効果的な方法なのでしょうか。

また私がもし検査を受けて陽性と言われたら、精神的なショックで立ち直れないでしょう。
社会的な活動も一切控えないといけません。
しかし実際は検査で陽性になっても実際に感染している確率が非常に低いとしたらどうでしょうか。

私にはもしキャパシティの面で可能になったとしても希望者全員に検査するのがよいとは思えません。
検査の感度の問題もあります。
実際、韓国では軽症の患者が先に入院してしまっているため、真に必要な人が入院できず、待機している間に自宅で亡くなるなど、一部に医療崩壊が起きかけているという報道もあります。

検査をしまくると、軽症者がどんどん発見され、医療崩壊を起こしてしまうのです。
韓国では致死率が高いが感染力は比較的低いMERS(中東呼吸器症候群)の時に立てた対策を、致死率は比較的低いが感染力が高い今回の新型コロナウイルスにそのまま用いたのがミスだったという話も聞きました。

現状は症状が重い方など医師が必要と判断した人や、濃厚接触者、クラスター感染が疑われる人だけにきちんと検査ができれば十分なのではないでしょうか。
ただ感染の実態を知るために、地域や年齢層を限定して調査して傾向を知ることはぜひやるべきと思います。

不幸なことですが、もし有病率が上がれば、検査数を増やす必要が出てくるでしょう。
その時に備えて、多くの検査ができるような体制を整えておくことは大切だと思われます。

 京都大学の山中先生が、テレビ番組で「毎年日本では1千万人がインフルエンザに罹患する。
もし今度の新型コロナウイルスで同程度の感染が起き、致死率が1%とすれば、10万人がなくなることになる。」と深い憂慮を示されていました。
そうなれば社会的なパニックは避けられません。
一人一人が感染拡大を防ぐために、協力することが重要と思います。

この騒ぎができるだけ早く収まることを願っています。
もし私の書き方が悪く、こういう疾病をテーマとして扱ったことで、気を悪くされた方がいたらお許しください。


◆神奈川県 シンノスケ さんからのコメント。

新型コロナウイルスのPCR検査の問題点や治療薬等の情報を調べている中で,記事を拝見し,かなり興味深い内容だったのでコメントさせて頂きます。

まず,ベイズの定理を使った計算は,認知神経科学者の下條信輔教授が書いた朝日系の論座という記事(3/27)の中にあります。
https://webronza.asahi.com/science/articles/2020032600006.html?page=1

下條氏はPCR検査の精度をベイズ確率で分析し,「検査を多数せよ」という主張は不確実性を無視しすぎているので,医療体制に悪影響を及ぼす恐れがあるとしています。
そして,数学の部屋と同じような問題を出しています。

「今ある人がPCR検査で「陽性」と判断されたとする。この人が本当に感染している確率は,どれほどか? ただし,検査の「感度」=70%,「特異度」=98%,真の感染率=1%とする。」

下條氏の正解は約26%で,数学の部屋の計算式に代入した結果と全く同じです。

実は,数学の部屋の記事を最初に読んだ際に,結果の数字があまりにも低くすぎるので,直観的に「この計算式はどこか間違っている」と考えたのですが,実際に計算してみると下條氏の結果と同じだったので,正直言って驚きました。
疑って申し訳ありませんでした。早速,計算式をExcelに移し,色々と数字を変えて楽しんでいます。

また,韓国のようなドライブスルー検査は望ましくない,
希望者全員に検査するのは良くない,
症状が重い方や濃厚接触者等の感染が疑われる人だけにきちんと検査ができれば十分,
有病率の上昇に備えて多数の検査ができるような体制を整えておくことは大切,
等のご意見は全て賛同致します。

さらに,「新型コロナウイルス感染症について、怪しい情報と信頼できる情報」に書かれているご意見についてもその通りと思うことが多々ありました。

特にアビガンについては,開発した富山化学がその強い副作用から臨床試験を諦め,買収した富士フイルムがなんとか製品化した経緯があります。
私自身も同様の化合物を少し研究していたので,インフルエンザだけでなく,エボラにも効く理由を考察し, 新型コロナにも効くだろうと考えていました。
しかし,催奇形成等の危険も大きいので使わない方が無難です。

一方,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査試薬キット(イムノクロマト法)に期待されていますが,これは感度的にあまり良くないと思います。
たぶん,MERS-CoVの検査で開発されたRT-LAMP 法が検査時間的にも感度的にも優れていると思います。
現在のLAMP 法の開発状況は不明だったので,検索すると以下の記事が見つかりました。

「キヤノンメディカルは3月26日、同社と長崎大学が共同開発した新型コロナウイルス迅速遺伝子検出システムが行政検査として実施可能になったと発表した。
開発したのは、遺伝子増幅法である蛍光LAMP法を用いた「新型コロナウイルスRNA検出試薬 Genelyzer KIT」。
患者検体から新型コロナウイルス遺伝子を検出するまでに要する時間が、検体の前処理操作(ウイルス遺伝子の抽出)を含めても40分以内でウイルスの遺伝子が検出可能。
これを用いた迅速遺伝子検出システムは、厚生労働省および国立感染症研究所による「臨床検体を用いた評価結果が取得された2019-nCoV遺伝子検査法について」で、陰性一致率100%、陽性一致率90%以上であることが公表された。」

蛍光LAMP法の課題として,感度が良すぎるので,コンタミを非常に起こしやすいという問題がありましたが,この製品が克服していれば,なかなか良いのではないかと思います。


ご意見、ご感想、何分、素人ですので誤りの訂正などありましたらぜひ連絡をお願いします。メール
またベイズの定理を使って計算をした方がおいでましたらそれも連絡お願いします。


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