『Multinomial Sums』解答


◆愛知県 Y.M.Ojisan さんからの解答。

【問題1】

【方針】

Cには パスカルの3角錐とでも呼ぶべき性質

C(N:n1,n2)=C(N-1:n1-1,n2)+C(N-1:n1,n2-1)+C(N-1:n1,n2)

があり、これより A1(N)=3*A1(N-1) が得られます。
この式は以下のように書きかえることができ、
このようなa,b,cの恒等式 (a+b+c=1) を見つけることでArの漸化式を見つけます。

C(N:aN,bN)
=C(N:aN,bN)*a+C(N:aN,bN)*b+C(N:aN,bN)*c
=C(N:aN,bN)*(a+b+c)
ここで a= n1
N
,b=n2
N
,c=1-a-b

【定義1】

a,b,cに関する対称化演算子<>を定義します。すなわち
<F(a,b,c)>= F(a,b,c)+F(a,c,b)+F(b,a,c)+F(b,c,a)+F(c,a,b)+F(c,b,a)
2

例えば <a3>= a3 +b3+ c3,<abc>=3abc

【補題1】

任意のa,b,cの対称多項式 は
M=< -ab
2
>=-(ab+bc+ca) と L=abc の多項式である。
ただし <a>=1に規格化する。

∵ a,b,cは x3=1x2+Mx+L の解であるから3次以上の次数項は2次以下に低減可能である。
即ち、任意の対称多項式は、M,Lの多項式を係数とし、a,b,c次数が2以下の対称多項式に恒等変換可能である。

これらは

<a>=1

<a2>=<a>2−<ab>=1+2M

<ab>=−2M

<2a2b>
=<a2><a>−<a3
=1+2M−葱i<ai
=M、Lの多項式

<a2b2
=<a22−<a4
=(1+2M) 2−葱i<ai
=M、Lの多項式

<aibjck> =Lk<ai-kbj-k
for k=1,2 1≧i-k≧0 1≧j-k≧0

により、M,Lの多項式になる。

【補題2】

結合最大次数がDである任意のa,b,cの対称多項式に対応するM,Lの多項式の各項のM,Lの次数を
p,qとするとき、2p+3q≦Dである。
ここで結合最大次数は(各項のa,b,cの次数の和)の最大値である。 

∵ 省略 補題1から容易に分かる。

【補題3】

結合最大次数Dのの対称多項式に対応するM,Lの多項式の項
(1,M,L,M2,ML,.....MpLq)の数 NeはDの2次式の程度で
Ne=狽P for 2p+3q≦D  である。

∵ 省略 下図参照

例 {D=1 Ne=1} {D=4 Ne=4} {D=7 Ne=8} {D=9 Ne=12}

注)7次の項(赤丸)は6次で2個の後1個だけに戻り、少しだけ特異である。
次は13次であり、12次で3個後、2個に戻る。

【定義2】

生成元 ei(M,L)を以下のように定義します。
ei(M,L)=MpLq

ここで iは自然数で補題3の#iです。
すなわち、2p+3q≧0およびq≧0の小さい方から順番につけた番号です。

【Cの拡張】

n1<0 又は n2<0 又は N−n1−n2<0 の時
C(N:n1, n2)=0

【定義3】

Arの定義の這狽まとめ&拡張して下記で表します。

Δ[n1,n2]{f} :fを全ての整数値(−∞から∞)n1,n2に対して合計する。
よって Ar(N)=Δ[aN,bN]{C(N:aN,bN)r}

また Δ[aN,bN]{g(a,b,c)C(N:aN,bN)r}を略して Δ{g(a,b,c)} で表す。

【定義4】

Arを拡張して以下の様にベクトル化します。

r,i(N)=Δ[aN,bN]{ ei(M,L)C(N:aN,bN)r}

よって、元の意味のAr(N)=r,1(N)

【補題4】

<f(a,b,c)>=葱iei(M,L) for i =1〜Ne(<f>)
ここで Ne(<f>)は補題3のNeの意味である。
Kiは定数係数。

∵ 補題3に等価。

【補題5】

<f(a,b,c)>のa,b,c何れかの次数がr以上のとき、
以下のようにNを1下げたr,iの線形結合で表せる。

Δ[aN,bN]{<f(a,b,c)>C(N:aN,bN)r}=
i=1〜Ne(<f(a,b,c)>)
Ki(N)* r,i(N-1)

∵ C(N:aN,bN)rar
=N -r C(N:n1,n2)rn1r
=C(N‐1:n1‐1,n2)r
=C(N‐1:aN‐1,bN)r
=C(N‐1:a'(N-1),b'(N-1))r 等から成立。詳細省略

ここで
a'= a*N-1
N-1
b'= b*N
N-1
c'= c*N
N-1
a=(1- 1
N
)*a'+ 1
N
=ν+(1-ν)a'
b=(1-ν)*b',c=(1-ν)*c'

【補題6】

下記で定義される行列Qの行列式が0でないとき、

r(N) = Q-1*K(N)*r(N−1)

である。
|Q|≠0なるものを見つけられれば漸化式が得られる。
ここで Qijは Fj(a,b,c)=撚ij*ej(M,L) でFjはa,b,c何れかの次数はr以上。

∵ Δ[aN,bN]{Fj(a,b,c)C(N:aN,bN)r}
=Δ[aN,bN]{撚ij*ej(M,L) C(N:aN,bN)r}
=撚ij*r,i(N)

一方、左辺は補題5よりNr葱i(N)* r,i(N-1)である。

|Q|≠0であるFjの有限列が必ず存在するか証明できなかったので、以下rの具体値において考える。

【補題7】

任意の対称式f(a,b,c)は 下記のPXYZの線形結合である。

PXYZ(a,b,c)=LX<aYbZ

ここで L=abc 1=a+b+c X≧0  Y≧Z≧0

∵任意の対称式f(a,b,c)は<apbqcX> p≧q≧X≧0 の線形結合であるから。

従って、Fjの候補として結合最大次数Dがr以上のPXYZで
Dの小さい方からNe(D)個選んではQを作り、
|Q|≠0 になるものを探せばよい。

因みにP0Y0は当選確実である。
しかしその個数はD1のオーダーであり、D2オーダーであるNe個はこれだけではとれない。
またPXY1は下記補題9より
= PXY0−PX(Y+1)0
2
なので落選である。

さらにL=(1-b-c)*b*cであるので、
PXYXは P0YZの線形結合で表せるのでX=0のみとしてよい

 以下はFjを Kijであらわすための補題である。
即ち補題9で P0Y0を作り、補題8でP0YZを作ればM、Lの多項式の係数Kijが分かる。

なお、補題10でPXYZも作ることも可能である。

【補題8】

P0YZ=<aYbZ>= P0Y0*P0Z0−P0(Y+Z)0
2

∵ P000=<1>=3 よりz=0のとき
P0Y0*3−P0Y0
2
=P0Y0で成立。
z≧1のとき 
<aY><aZ>=<aY+Z>+2<aYbZ>であるから。

【補題9】

P0Y0=P0(Y-1)0+M*P0(Y-2)0+L*P0(Y-3)0 for Y>2

P000=3
P010=a+b+c=1
P020=a2+b2+c2=(a+b+c)2+2M=1+2M

∵補題1参照

【補題10】

PXYZ= LX ×P0YZ

∵補題7参照

【補題11】

Δ[aN,bN]{a<f(a,b,c)>C(N:aN,bN)r}
=Δ[aN,bN]{<f(a,b,c)>C(N:aN,bN)r}/3

∵a,b,cについて対称であり、a+b+c=1であるから。

【問題1−1解答】

r=2の場合 結合最大次数D=4 Ne=4で|Q|≠0が見つかった。

すなわち、P020,P030,P040,P022である。

Δ{P020}=32,1(N-1)

Δ{P030}
=Δ[aN,bN]{<a3>C(N:aN,bN)2}
=Δ[aN,bN]{<νa2 +(a−ν)a2>C(N:aN,bN)2}
=Δ{P020}ν+Δ[a'(N-1),b'(N-1)]{<a'(1-ν)>C(N-1:a'(N-1),b'(N-1))2}
=3ν*2,1(N-1)+3*(1-ν)*2,1(N-1)/3
=(1+2ν)2,1(N-1)

Δ{P040}
=Δ[aN,bN]{<a4>C(N:aN,bN)2}
=Δ[aN,bN]{<a2 [(1-ν) 2a'2+2νa−ν2]>C(N:aN,bN)2}
=−Δ{P020}ν2+2Δ{P030}*ν+(1-ν)2[2,1(N-1)+2*2,2(N-1)]
=(1+2ν2) 2,1(N-1)+2(1-ν)22,2(N-1)

Δ{P022)
=Δ[aN,bN]{<a2 b2>C(N:aN,bN)2}
=Δ[a'(N-1),b'(N-1)]{<(1-ν)2b'2>C(N-1:a'(N-1),b'(N-1))2}
=(1-ν)2[2,1(N-1)+2*2,2(N-1)]

また M,Lで展開すると、Qは

よって、計算すると、以下の漸化式がえられる。

2,3 2,4は右辺に出てこないので不要である。

2,1(N)
=[6*3−8(1+2ν)+3(1+2ν2)−6(1−2ν+ν2)]2,1(N-1)+[ 6(1-ν) 2‐12(1-ν) 2 ]2,2(N-1)
=[7‐4ν]2,1(N-1)−[ 6(1-ν) 2 ]2,2(N-1)

2,2(N)
=[-5*3/2+4(1+2ν)−3/2(1+2ν2)+3(1−2ν+ν2)]2,1(N-1)+[ -3(1-ν) 2+6(1-ν)2 ]2,2(N-1)
=[−2+2ν]2,1(N-1)+[ 3(1-ν)2 ]2,2(N-1)

2,1(0) =1,2,2(0)=0

本漸化式による計算結果を下表に示す。直接計算と一致している。
1 2 3 4 5
2(N) 3 15 93 639 4653
-A2,2(N) 0 3 24 180 1368

なお、2,2を消去して2,1だけの漸化式にもできる。
ν=1/Nを用いて

A2(N)=(10−10ν+9ν2)A2(N−1)‐3(1−ν)2A2(N−2)

【問題1−2解答】

手順は同様であり結果だけ示す。

r=3の場合 結合最大次数D=7 Ne=8で|Q|≠0が見つかった。

すなわち、P030,P040, P050,P032,P060,P042,P070,P052である。

【右辺の漸化式】ΔP0YZを計算する必要があるが、ややこしいので漸化式を示しておく。

aK
=(a−ν)K+ aK− (a−ν)K
=(1−ν)Ka'K K-1
Σ
I=0
KCI (-ν)K-IaI

という恒等式を用いると、K=Y-3として

ΔP0YZ
=Δ<a3 aKbZ
=(1−ν)K+ZΔ'<a'Kb'Z>−ΣKCI (-ν)K-IΔ<aI+3bZ
=(1−ν)K+ZΔ'P0KZ+Σ(KCI (-ν)K-I×ΔP0(I+3)Z )

ここでΔ'はN−1における計算の意味である。

以上より漸化式係数行列は下表である。ν=1/N

  3(N−1)

1

3,2(N-1)

M

3,3(N-1)

L

3,4(N-1)

M2

3(N) 3+(ν-1)*{

72-348ν

+450ν2

-180ν3}

-3*(ν-1)2

*(5ν-3)

*(45ν-47)

-45*(ν-1)3

*(19ν-15)

-180*(ν-1)4

3,2(N) 2*(ν−1)*{

-15+70ν

-90ν2

+36ν3}

3*(ν-1)2

*{57

-148ν

+90ν2}

18*(ν-1)3

*(19ν-15)

72*(ν-1)4

3,3(N) -6*(ν−1)3

*{2ν−1}

(ν-1)2

*(-30

+74ν

-45ν2}
-3(ν-1)3

*(19ν-15)

-12*(ν-1)4

3,4(N) (ν−1)2*{

-13

+45ν

-30ν2}

-1/2*(ν-1)2

*(5ν-3)

*(45ν-47)

-15/2*(ν-1)3

*(19ν-15)

-30*(ν-1)4

本漸化式による計算結果を下表に示す。直接計算と一致している。
1 2 3 4 5
3(N) 3 27 381 6219 111753
-A3,2(N) 0 6 108 1854 34200
3,3(N) 0 0 0 162 3168
3,4(N) 0 3/2 32 2241/4 52704/5

【問題1−3解答】

以上までの有効なPXYZの現れ方から、独立に選ぶと良いのはP0X(偶数)のものであるらしい。
従って、Neも、有効なP0YZの数もDの2次のオーダであるが、係数がNeの方が小さいので何れ充足すると予測される。 

Ne≒D2/(2*3*2) 有効Pの数≒D(D−r)/(2*2)*0.72

逆に上記の式からDはr比例であり、一定間隔で出てくる可能性が高い。
(表中の黄色セル)

なお0.72は実験値である。

r=4の場合予想はD=10であり、
その際必要な漸化式の次元はNe(D−r)であって7である。

結合最大

次数D

Ne(D) Ne(D)

増分

P0X2z数

X≧2=r

P0X2z数

X≧3=r

P0X2z数

X≧4=r

P0X2z数

X≧5=r

P0X2z数

X≧6=r

       
     
   
   
 
 
10    
12     11
10 14     14 12
11 16       15 10
12 19       18 13
13 21       21 17
14 24         22
15 27         26
16 30         30
Ne(D−r) @|Q|≠0 10 14

実際予測どおり 結合最大次数D=10 Ne=14 で|Q|≠0が見つかった。即ち

P040,P050,P060,P042,P070, P052,P080,P062,P044,P090,
P072,P0A0,P082,P064    (here A=10)
である。
P0X(偶数)であるP054は独立にはならなかった。

実際に漸化式を求める場合は下図のように必要部分だけはき出して(桃色部分を0にする。)上下三角行列に分解して求めれば早い。
いずれにしてもこの解答方法でrの大きな右辺を計算して漸化式を実際に導くのは手計算では大変である。
一方、手順は漸化式としてかなり整理されており、基本的に生成元の線形結合問題であるから、PCで計算が可能である。

漸化式は煩雑なのでその係数を添付ファイルmlnsum_r4.txtに示す。
下表はその漸化式を用いて計算した結果であり、直接計算値と一致している。
なお4,6(N)は漸化式の係数が全部0になっており、実際には不要であって6次の漸化式になった。

N 1 2 3 4 5 6 7
4(N) 3 51 1785 67635 2973753 146591529 7735733883
4,2(N) 0 -12 -540 -20700 -927000 -46426080 -2470833036
4,3(N) 0 0 48 1944 89280 4635000 251506080
4,4(N) 0 3 168 6372 290016 14747025 790674264
4,5(N)分子 0 0 -16 -1215 -140544 -1481250 -80799120
  分母 1 1 1 2 5 1 1
4,6(N)分子 0 -3 -160 -31509 -91008 -18788625 -12418912224
  分母 1 4 3 16 1 4 49
4,7(N)分子 0 0 16 243 13824 452500 408337200
  分母 1 1 9 4 5 3 49

【おまけ】

一般式ではありませんが、計算機で求められる一般的な手順は示しました。
以下はパソコンによる計算結果です。

【r=5の場合】

D=13 NE=21 漸化式次元=10 ν最大次数=8

漸化式係数は添付ファイル mlnsum_r5.txt

独立なP0YZ:

P0|5|0 ,P0|6|0 ,P0|5|2 ,P0|7|0 ,P0|8|0 ,P0|6|2 ,P0|9|0 ,
P0|7|2 ,P0|10|0 ,P0|8|2 ,P0|6|4 ,P0|5|5 ,P0|11|0 ,P0|9|2 ,
P0|7|4 ,P0|12|0 ,P0|10|2 ,P0|8|4 ,P0|13|0 ,P0|11|2 ,P0|9|4 ,
このうち P0|5|5はZが奇数で特異です。D値は予想どおり。

【r=6の場合】

D=16 NE=30 漸化式次元=14 ν最大次数=10

漸化式係数は添付ファイル mlnsum_r6.txt

独立なP0YZ:

P0|6|0 ,P0|7|0 ,P0|8|0 ,P0|9|0 ,P0|7|2 ,P0|10|0 ,P0|8|2 ,
P0|11|0 ,P0|9|2 ,P0|7|4 ,P0|12|0 ,P0|10|2 ,P0|8|4 ,P0|13|0 ,
P0|11|2 ,P0|9|4 ,P0|7|6 ,P0|14|0 ,P0|12|2 ,P0|10|4 ,P0|8|6 ,
P0|6|6 ,P0|15|0 ,P0|13|2 ,P0|11|4 ,P0|9|6 ,P0|16|0 ,P0|14|2 ,
P0|12|4 ,P0|10|6
ここまでD値は予想どおりでした。

なお、合わせてr=2,3,4の計算機出力の漸化式係数のファイルを添付します。
mlnsum_r2.txt , mlnsum_r3.txt , mlnsum_r4.txt

【感想】

またも、パソコン領域に持ち込んでしまいました。 
ここまでかなりの時間を費やしました。
とても興味深い問題でしたが、息切れ気味です。


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