『整数解方程式の接近』解答


◆三重県 鳥居 泰伸 さんからの解答。

【問題1】

α1+α2=0, β1+β2=0 であるから、
f(X)=(X−α1)(X+α1)=(X−β1)(X+β1)−B
この定数項を比較すると B=α12−β12
1|,|β1| は 2,1 を取るとき |B| が最小となり |B|=3 である。
このとき、f(X)=(X−2)(X+2)=(X−1)(X+1)−3 となる。

ただし、f(X) の X の1次の項を許して良いことにすると、
f(X)=X(X−3)=(X−1)(X−2)−2 となって |B|=2 の解が得られる。

【問題2】

α1+α2+α3=0, β1+β2+β3=0 であるから、
f(X)=(X−α1)(X−α2)(X+α1+α2)=(X−β1)(X−β2)(X+β1+β2)−B
この X の1次の係数を比較すると
−A1=α12+α1α2+α22=β12+β1β2+β22
ここで Z(ω) なる二次体の整数環を考える。
ただし、ω は1の3乗根の一つで、ω=[−1+√(−3)]/2 である。

二次体のノルムを考えると、
Norm(α1−α2ω)=α12+α1α2+α22
Norm(β1−β2ω)=β12+β1β2+β22
3n+2 型の有理素数 p は Z(ω) 上ではそれ以上に分解されない。
A1 に 3n+2 型の有理素数 p が存在すると、α1−α2ω も β1−β2ω も p の倍数となる。
その結果、すべての αj とすべての βk が p の倍数となり、B も p の倍数となるため、|B| を最小にする目的には適さない。

−A1 が小さい順に、可能性がある候補を取り出してみる。
−A1=1 のとき、α1−α2ω, β1−β2ω は、±1,±ω,±(1+ω) のいずれかであるが、α123 は 1,0,−1 のどれかとなり、β123 も 1,0,−1 のどれかとなり、αj と βk とが等しくなるものが存在する。

−A1=3 のとき、α1−α2ω, β1−β2ω は、±(1−ω),±(2+ω),±(1+2ω) のいずれかであるが、α123 のうち2つは 1 または -1 で等しくなる。

−A1=7 のとき、α1−α2ω, β1−β2ω は、±(3+ω),±(3+2ω),±(2+3ω) のいずれかであるが、例えば α1−α2ω=3+ω, β1−β2ω=−3−ω を選ぶと、α123 は 3,−1,−2 となり、β123 は −3,1,2 となり、題意に合う αjk が得られる。

よって、f(X)=(X−3)(X+1)(X+2)=(X+3)(X−2)(X−1)−12 となって、|B|=12 の解が得られる。
ここで得られた解が最小の |B| となっている。

【問題3】

完全な解法ではないが、f(X) が偶関数である場合に限定して扱ってみる。

偶関数であることから、α1=−α42=−α31=−β42=−β3 とおく。

f(X)=(X−α1)(X−α2)(X+α2)(X+α1)=(X−β1)(X−β2)(X+β2)(X+β1)−B

この X の2次の係数を比較すると
−A2=α12+α22=β12+β22

ここで Z(i) なる二次体の整数環を考える。
ただし、i=√(−1) である。

二次体のノルムを考えると、
Norm(α1+α2i)=α12+α22
Norm(β1+β2i)=β12+β22

4n+3 型の有理素数 p は Z(i) 上ではそれ以上に分解されない。
A2 に 4n+3 型の有理素数 p が存在すると、α1+α2i も β1+β2i も p の倍数となる。
その結果、すべての αj とすべての βk が p の倍数となり、B も p の倍数となるため、|B| を最小にする目的には適さない。

A2 が 4 の倍数のときも各 αjk が 2 の倍数となるため、最小の |B| を与える解にはなり得ない。

4n+1 型の有理素数 p は Z(i) 上の素数 π,π'(π と π' は互いに共役)の積にただ一通りに分解される。
π=α1+α2i とすると p=α12+α22 となるが、絶対値が同じ α1 を同一とみなし(α2 についても同様)、α1 と α2 とを入れ替えたものも同一とみなすと、p=α12+α22 の書き方は一通りとなる。

従って、−A2 が 4n+1 型の有理素数の場合は αj と βk とが等しくなるものが存在する。

−A2 が 4n+1 型の有理素数 p の 2 倍の場合も 2p=α12+α22 の書き方が一通りしかないため、やはり αj と βk とが等しくなるものが存在する。

−A2 が小さい順に、可能性がある候補を取り出してみる。
−A2=25 のとき、一例として
α1+α2i=5, β1+β2i=4+3i
のように書けるが、α1234 のうち2つは 0 となるため題意を満たさない。

−A2=50 のとき、一例として
α1+α2i=5+5i, β1+β2i=7+i
のように書けるが、α1234 のうち2つは 5、残り2つは −5 となるため題意を満たさない。

−A2=65 のとき、一例として
α1+α2i=8+i, β1+β2i=7+4i
のように書け、題意に合う αjk が得られる。

よって、f(X)=(X−8)(X−1)(X+1)(X+8)=(X−7)(X−4)(X+4)(X+7)−720 となって、|B|=720 の解が得られる。

コンピュータを使って、必ずしも f(X) が偶関数とは限らない場合も含めて、解を求めた結果、上記の |B|=720 の場合が最小の |B| を与えることがわかった。

なお、X3 の項を許しても良いことにすると、
f(X)=X(X−4)(X−7)(X−11)=(X−1)(X−2)(X−9)(X−10)−180 が成立して、|B|=180 となる最小の |B| を与える解が得られる。

【おまけ】

5次以上の場合をコンピュータを使って探った結果、以下のような解を得た。
各次数とも探した範囲の中で最小の |B| を与える解を記した。

5次:
f(X)=(X−9)(X−5)(X−1)(X+7)(X+8)
=(X−8)(X−7)(X+1)(X+5)(X+9)−5040

6次:
f(X)=(X−11)(X−6)(X−5)(X+5)(X+6)(X+11)
=(X−10)(X−9)(X−1)(X+1)(X+9)(X+10)−100800

7次:
f(X)=(X−51)(X−33)(X−24)(X+7)(X+13)(X+38)(X+50)
=(X−50)(X−38)(X−13)(X−7)(X+24)(X+33)(X+51)−13967553600

8次:
f(X)=(X−25)(X−21)(X−16)(X−2)(X+2)(X+16)(X+21)(X+25)
=(X−24)(X−23)(X−14)(X−5)(X+5)(X+14)(X+23)(X+24)−1210809600

残念ながら、9次以上の解は見つけることができませんでした。


◆出題者のコメント。

大変エレガントな解釈をありがとうございます。
n-1次が0で奇異ですが、別の問題の補題として出てきた経緯があります。
やはり正確な一般解は困難ですね。


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