中央階段の怪


 それは冬の寒い晩の事でした。

学校内には当直の先生と小使いさんだけです。
当直室の時計がボンボンと十一時を告げました。

「おじさん、わし少し学校をまわってくるからね。」と云いながら、先生は月に照らされた雪明りで、青白く薄明るい廊下を、東側の校舎へと見まわりに出ていきました。
コンクリートの校舎は、気味悪いほど静まりかえって、ただ足音のみがコツコツと響きわたり、一層淋しさを増しているようです。

 突然、東階段の方で、「キャーッ」という女の叫び声。
先生は一瞬ギョッとして立ち止まりましたが、すぐさま声のした方に走りました。

しかし、階段付近のどこにも人影はありません。
ただ階段の下に、女生徒の物らしい草履が片方だけ転がっていました。

不思議に思いながらも、それを拾い上げ、二階をまわり、三階にさしかかった時です。

 今度は中央階段の方から、先ほどと同じ女の叫び声がしたのです。
先生は気味悪さに、身も凍る思いでしたが、気を取り直して声の方に走りました。
しかし、そこにも人影はなく、ただ階段だけが窓からさし込む青白い寒月の明かりで不気味に光り、屋上に通じていました。

 先生の心臓は大きく鼓動し、階段までが、なぜか波うっているように見えるのです。
特に一番上段が浮き沈みしているように感じられました。
不思議に思い気を鎮めながら、先生は一段一段数えるように階段を上り屋上へ。
一段、二段・・・・・・・・十三段。
屋上は雪で白一色、別に何事もなく静まりかえっていました。
先生は少し落ち着きをとりもどし、もう一度、一段一段数えながら階段を降りましたが、十三段と変わりません。

 しかし、どうもなにか気にかかる先生は引き付けられるようにもう一度階段を上り始めました。
一段、二段・・・・・・・・十三段。
アッ一段多い。十四段あるのです。 先生は背筋に水を浴びたような戦慄に襲われました。
そして不思議な事に、前と同じ女の草履の片方が転がっていたのです。

 その後も、夜中になると、時折り、上りと下りで一段違うことがあるということです。
不思議ですね。恐いですね。


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